ドリフェス!を観たらアイドルの煌めきとは何かを知った
アイドルの煌めきと、当事者性についての話*1。
ドリフェス!R:5話のネタバレを含みます。
アイドルとは何か。アイドルにハマっていない人からすれば、歌って踊ることで人を楽しませるエンターテイナーだという見方が強いだろう。
側から見ればそう見えるだろうし、実際僕も以前はそうだった。
ではアイドルにハマっている人からは、何が見えているのか。その答えの一つと言えるものがドリフェス!にあった。
アイカツですっかりアイドルの煌めきに魅了されてしまったが、ではそのアイドルの煌めきとは何かと聞かれたら、うまく答えられなかっただろう。アイドルとは何か、なぜこんなに惹きつけられるのか、説明しろと言われたら、ハッキリした答えを出せなかっただろう。
ドリフェス!を観るまでは。
ドリフェス!シリーズの素晴らしさについては、もう僕が書くまでもなく、他の方の熱意が伝わってくる文章の方が遥かにわかりやすいので、ここでは書かない。
とにかくサイコー超えてる作品だということだけ押さえてもらえればと思う。
サイコー超えてる作品を観てすっかりハマってしまった僕は*2、そのままドリフェス!Rも視聴、その中で、個人的には衝撃的な回が訪れる。
5話。子役からアイドルに転身した及川慎のフィーチャー回だ。
5年ぶりにドラマのレギュラー出演が決まり気合を入れる慎だったが、アイドルとして仕事が重なり、ドラマに専念できずにいた。主演で子役の颯太にまで気を使われてしまって悩む慎に、智景が語った言葉とは…!?
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この話の中で、彼は再び、昔の自分のフィールドである役者の世界に向き合うことになる。
“アイドルとして以前に”彼は、かつて天才子役として活躍していたが、今は現役を離れ、一歩引いた立場にいる。
昔取った杵柄、かつての自分を見るような傲慢さ、そのようなものが、決してなかったとは言えない。
所属しているユニットが好調なだけに多忙を極める彼は、結果として自己都合により現場を左右することになってしまう。アイドルとしてでもなく、役者としてでもなく現場に臨むことになり、それなりの辛酸を嘗める。
そこで、今現在アイドルである自分は、単なる賑やかし、宣伝目的、客寄せパンダなのだとわかってしまう。現場から求められていないということがハッキリしてしまったのだ。
“アイドルらしく”営業スマイルで現場を華やかにしていれば良いのだろうか。しかし、それでは身の置き場のない現場に自分のいることの意味を、そこまでの存在で終わらせてしまう。
彼は知っている。役者の世界は生半可な気持ちで入っていってはいけないことを。役になりきれない者が現場を乱すことを。
かつては天才子役と謳われた自分が、一番やってはいけないことをしている。
アイドルとして道化に甘んじることも、役者として役に臨むこともできない。
彼はアウェイを感じていた。
そんな時、アイドルとしての先輩である五月女智景が声をかける。智景は、現役トップアイドル三貴士の一人、五月女一花の語るところを言って聞かせる。
「『アイドルはどこに行ってもアウェイだ。ドラマやバラエティ、どの現場に駆り出されたって、そこには本職の俳優、芸人さんがいる。アイドルなんて、人気取りの道具としか思っていない奴だって多い』」
「でもそれは」
「事実だ。けど、僕たちが気にするべきはそこじゃない。アイドルがアウェイに入ることで生まれるもの、もっと他にあるはずだろ?」
そして、寿司屋で純哉↑が慎の悩みを聞いて答える*4。
「どっちかに寄せる必要なんかねぇ。俳優とか、キャスターとか、芸人さんとか、俺たちは本職の人には敵わないかもしれねぇ。だったら、アイドルとして丸ごと全部でぶつかろうぜ。」
この言葉を受けた慎は、アイドルとして、役に臨むことになる。そんな折、直前になってスポンサーの要望で脚本の修正が入る。慎は一旦そのままの脚本のまま撮らせてほしいと願い出、一言。
「俺が、最高の華になります」
慎は純哉↑とともに見事にアイドルとして華のある演技を見せ、スポンサーも納得の撮影を成功させた*5。
ライブもこなし*6、後日、今回の仕事で学んだことを語る慎。
「今回の仕事で、わかったことがある。アイドルが、ドラマやバラエティや、アウェイに挑んでいく意味。今までにない新しい姿を届けることで、喜んでくれるファンがいる。本職に敵うかどうかじゃない。アイドルは常に、新しい可能性を求めて、挑戦していくものなんだ。全てはファンのために*7」
この脚本に、雷に撃たれたような衝撃があった。
まさにアイドルとは、そのようなものなのだ。
話を現実に戻そう*8。
アイドルといえばどこか別の世界の人間で、自分には関係がないと思う人がいるかもしれない。
アイドルは華やかな舞台に立ち、皆の羨望を一身に受けていて恨めしい、という人がいるかもしれない。
商業主義的な側面が強く、金に汚いイメージがある。夢を見せるというなら清廉潔白なイメージを持たせてほしいという人がいるかもしれない。
容姿に恵まれ、家庭に恵まれ、運にも恵まれている。そんな恵まれた環境に身を置いてきたからこそ、アイドルとして活躍できる、という見方があるかもしれない。
残念ながら、間違いではないと思う。
しかし、アイドルは、その呪いを引き受けてなお、舞台に立つだろう。
その呪いこそがアウェイだからだ。
この呪いがある故に、どんな現場でも、アイドルはアウェイである。
アイドルなのに、という見方さえ、我々が作り出してしまったものだ。
アイドルは歌って踊ることで人を楽しませるエンターテイナー、という見方が既に、アイドルを規定しようとしてしまっている。その眼差しに捉えられたアイドルは、まさにアウェイに立たされていると言っていい。
ちょうど、客寄せパンダとして使われる慎様*9と同じように、身の置き場に困る状況に追い込まれているのだ。
だがそんな我々の眼差しを知ってか知らずか、アイドルはパフォーマンスを披露する。我々の想定を上回るパフォーマンスを、だ。その影に、弛まぬ努力と、強靭な克己心と、煌めく想いがあることを、様々なメディアから知ることができる。
アイドルなのに、という我々自身が作り出してしまったアウェイでなお輝こうとするその姿にこそ、我々はアイドルの煌めきを見るのだ。
アイドルだから、歌って踊るのではない。アイドルであるために、歌って踊るのだ。そしてそのために厳しいレッスンに耐え、血と、汗と、涙を流す。それが美しい。
アイドルであるためなら、何だってアイドル活動になるのだ*10。
むしろアイドルであるためなら、必ずしも歌って踊る必要はない。畑を耕すアイドルがいる。物作りをするアイドルがいる。料理をするアイドルがいる。最近では自然環境そのものを作るアイドルまで現れた*11。
我々は"アイドルが農業やる"から面白がって(物珍しさで)見ていたのではなくて、"農業に挑戦するアイドルの煌めき"をこそ見ていたんだな。うーん、このコペルニクス的転回。シビれた。
— みーと@芸カ18 (@mitomusee) November 17, 2017
開国した時の僕。
アイドルのやることではないと思うだろうか。何度も何度も言うが、それこそが彼らをアウェイに立たせる呪いだ。
アウェイにあって輝く者、それこそがアイドル。
蓋し、このアウェイという現実は、我々自身が作り出してしまったものだ。見て見ぬ振りをしているが、緩やかに、そして確実に自分の首を絞めている。
そしてまた、この現実は、我々にとって“アウェイ”である。そのアウェイにあって、泥臭くも必死になって前を向いて進もうとしている人の汗の美しさを、涙の輝きを、その想いの煌めきを、我々は既に知っている。
みんな、本当には、誰しもがコンプレックスを抱え、傷つき、悩み、ままならない現実と戦っていることを知っているはずだ。
だからこそ、アイドルには当事者性がある。
その惨めさも、その悔しさも、その涙の訳も、全てがアイドルを見る人の中にあるためだ。
だからこそ、その共感を応援に変える。
アウェイで戦うアイドルは、我々の希望そのものだからだ。
アイドルは常にアウェイで戦う。
身の置き場のない現実を切り拓いて、自分の足で立っている。
それがどれ程の困難かを、我々は知っているはずだ。
アウェイに立たされてなお輝こうとする、その意志の煌めきとは何かを我々はもう既に知っているはずだ。
アイドルとは何か、ということを考えたことのある人ならもう既に"アイドルそのものから"、心のドリカカードを受け取ってしまっていると思う。
Catch your Yell!
僕は、人それぞれに開国するタイミングがあると思っている。是非、ドリフェス!を観て、アイドルの煌めきとは何かを知ってほしい。そして開国してほしい*12。
ありがとうございました。
ドリフェス!R、6話まで観た。5話の脚本の説得力が凄くて、アイドル観が変わってしまった。アイドルはどこの現場でもアウェイであって、そこに挑戦していくことで見せられるものがアイドルとしての可能性であり、その可能性の煌めきに僕らはアイドルを見るワケだ。なるほどな、開国した。
— みーと@芸カ18 (@mitomusee) November 17, 2017
ドリフェス!R、5話。なぜアイドルを応援するのか、応援したいと思うのかってことがイマイチ言語化できてなかったけど、それらが全て言葉になっている感じだ。凄いな、この脚本。新しいことに挑戦していくときのキラキラした感じ、あのキラキラを出すのがアイドルの仕事だもんな。そりゃ開国するわ。
— みーと@芸カ18 (@mitomusee) November 17, 2017
これは観た直後の僕。はしゃぎ過ぎて何を言ってるのかよくわからないので今回まとめた。
*1:今回の脚注は全て副音声です。
*2:ちなみに僕の推しは純哉↑くんと髪を下ろした時の奏くんと三神さんの車の前で飼い主を待つ犬のように座り込んで待っていた奏くんです
*3:渋い顔してるのが慎様です
*4:ちなみに「お前はエンガワ、俺はタマゴ」と寿司ネタに例える純哉↑くん、ドラマでは金髪にカチューシャしててまさに寿司ネタのタマゴなんですよね。
*5:役としてつけていたタマゴの海苔であるカチューシャを投げる純哉↑くん、タマゴであることも捨て、ファンにとっては見慣れた剥き身の“アイドル”を見せる。粋というやつだ
*6:ピエロも騙せる想い愛
*7:EDの差替え分で挿入される一枚絵、全く状況がわからないのだが、投げたカチューシャが猫耳に変わって返ってきたのか純哉↑くんの猫耳カチューシャコスが描かれており、新しい可能性を感じる
*8:戻りたくはない。
*9:この字面の強さ、推せる
*11:全部同じアイドル
*12:やっぱりKUROFUNEも推しでした。