ミスターSについて一家言ある
芸カ18にて頒布した「パパライチ」、お手にとってくださり、ありがとうございます。
これは自分の中の不安に対して何か答えを与えたいなと思っていたものなので、共感は少ないかもしれないですが、形にしておきたかったです。
ここではあとがきに書けなかったことを書きます。漫画の内容について書こうかなとも思ったんですが、それ以前にどうしてこんなもの描いてしまったのかをまず書いておきたいです。
すでに公開中のサンプル11Pまでの内容について言及します。
これはアイカツなのか、と言われれば、アイカツではないと言えます。
描いていて不安だったんですが、完成に近づくにつれますます不安が募り、芸カ当日は「こんなものアイカツではない!」と言いながら本をバシーンと床に叩きつけられることも覚悟して臨みました。
ただ、それでも描ききったのは、アイカツの光は、アイカツでないところにまで届くのではないかという思いがあったからでした。
ミスターSについて
まず、自分は根本的な所から、ミスターSがアイカツ世界にいる意味と理由を捉え直したいと思いました。
ミスターSは、ファンが理解を持って応援し、それに対してアイドルが輝いて期待に応える、アイカツ!の美しい世界観にはそぐわないんでしょうか。
ミスターSは作中、ほぼ唯一アイドルたちを悪意を持って扱おうとした人物でした。キラキラしながらアイカツをしている彼女たちを、ゴシップとして消費させようとする彼は確かに良い人物とは言えないかもしれません。ただ、アイドルは、そんな目にも晒されている事実がそこにあるんだと思います。ミスターSの登場によって、アイドル業界の中、それを取り巻くファンからだけではなく、ファンではない一般的な大衆からも注目されているという意味で、話の重みが一気に増した気がしました。
今回の中でミスターSを悪者みたいに扱いましたが、それは一面的な物の見方でしかなく、話をわかりやすく整えるためにああいった形で出したに過ぎません。
彼が仕事としてゴシップを追っているのは、それが求められる素地があのアイカツ世界にあるからだと思います。仕事というのは基本的に他人が求めていることを実現して対価を得ることです。彼があの仕事を、仕事として成り立たせていくには、その後ろに一定数以上の悪意を持った人間がいる、ということを意味すると思います。アイカツ世界も一見優しく見えますが、人間の悪意は見えないところで渦巻いている。ミスターSはそこをうまく掬い上げているに過ぎなくて、悪意の体現者といえど、諸悪の根源ではない、というのが本編での扱いかなと思いました。
アイカツ世界が今回描いたような未来を辿ることになるとはとても思えません。ですが、可能性はゼロではない。今回はあえて、万に一つの可能性を拾いました。万に一つの可能性すらなんとかしたかったからです。
善意も悪意も含んだ人々の総意が世界のあり方を決めていくのだと思います。もし悪意を持った人間が力を持ってしまったら、あるいはそのような人が増えたら、そういった、人々の悪意が積み重なり、動いて、変わってきてしまったら、という世界を考えました。要は、現実社会に近いところを想定しました。
単純に悪意を持った人間を排除すれば良くなるのか。そうは思えません。人々の、暗い楽しみは依然としてある。答えはわかりませんが、僕はそこでアイカツを信じていきたかったです。
作中、美月さんがスターライト学園を離れ、ライバル校と言ってもいいドリームアカデミーで活動していることを嗅ぎつけたミスターSは、この対立構造を煽ろうとします。
しかし、結局アイドルたちは、この対立構造すらエンターテイメントとして昇華してしまう。しかも、勝つか負けるかだけでなく、キラキラしながらアイカツする。人の想像を超えたところで光る、これこそがアイカツだと思いました。
やはり僕は、ミスターSを責めるのではなくて、自分の中のアイカツを大事にしていきたいと感じました。
ミスターSと星宮らいち
らいちがアイカツ新聞やアイカツタイムズのようなアイドルファン活動、ファンカツを続けていくとしたら、また、そこに自分の夢や使命感を見出すとすれば、必ずどこかでミスターSという壁につき当たると思っていました。アイカツ新聞の内容を見ると、結構際どい内容になっていることがあったからです。煽情的な見出し、スクープ記事。読者を煽り、目を引きつけるために、あえてそうしている節があります。
情報を扱う職業が求められることに、秘密情報を含む情報をどう扱うのか、という倫理観があると思います。当時はまだ、子供のやることだからと言えるかもしれません。そこから、壁新聞で済んでいた頃とは違う、マスを相手に情報を扱い、情報を伝えていく立場の人間として、"何を伝え"、"何をしない"のか。実際に責任ある立場になることで、見えてくるものがあるのだと思います。その時初めて、ミスターSの仕事というものを正確に捉えることができるのでしょうし、そこでらいちが選択するものは何なのか、ということを考えたかったです。
もう一度言いますが、ミスターSがあの仕事をしているのは、それが世間に求められているからです。
ではらいちはどうなのか。どうするのか。
秘密情報を握った時、出せば売れるのに、出さないことを選択するのは、信念がなければできないのではないかと思います。
"信念のもとに、何かをしない"ということは、自分だけが分かっていることで、他人からすれば目に見えないことです。そして、誰からも評価されないことです。それは見えない星のように人の目に光が届かないものだと思います。それを信じていられるか、大切にできるか、自分の中で輝いているか、自分は、らいちだったらそれができると思いました。
"アイカツ"を見ていない読者に"アイカツ"を届けられるか、というのが、将来らいちがどのような記者になるとしても、重要な仕事になってくるんじゃないかと思います。
ところでらいちの好物ってなんなんですかね。僕は最初きんぴらだと思ったんですけど、きっと百点満点の答えではないとも思いました。描いてるうちに思ったのは多分百点満点の答えは"りんごさんの手料理"なんだろうなぁということでした。
ありがとうございました。
最後に今回の話の前日譚というか、62話の裏側を漫画にしてみました。
改めまして芸カ18お疲れ様でした!
— みーと@芸カ18新刊通販あり (@mitomusee) March 5, 2019
今回の話は、今までらいちが積み重ねてきた取材活動に対する"信頼感"が、将来らいちの仕事にどう関わってくるかということを描くのが裏テーマだったので、そこに繋がる漫画を描きました。ちなみにこの裏の時系列である62話でらいちと例の人がニアミスしてますね。 pic.twitter.com/BmkcgOSqpt
今回のはまだまだ在庫があるのでBOOTHで自家通販してます。
よろしくお願いします。